性暴力サバイバーが出産するとき 推薦文

推薦文1

誰にも話せないという傷を心身に刻まれた性的虐待の被害を受けた女性の出産について、ここまで広く深く掘り下げた本を私は知らない。
「これまで手がかりがなかったところに光が差した」。冒頭からすぐに直感し、今まで声にならなかった声、言葉にならなかった思いに当てはまる言葉を手繰り寄せるように読み進めた。それは封印してきた事実がどれほどの影響をこれまでの人生に及ぼしてきたかを振り返る作業にもなった。

大きかったのは、自分は体験の後遺症を生きてきたのだという実感だった。性暴力とは受けた人の人格や振る舞い方や人との関係性においても、長年に渡り歪んだ影響と爪痕を残す。妊娠・出産の前に不妊治療においても完全な医療の管理下で、生殖のためだけの能力を判別される対象としての無力感もよみがえった。そこには内在する力を引き出そうとしたり、エンパワメントの余地もなく、命を宿し生み出すための場所で心を置き去りにするたびに、たくさんの傷を抱えてきたのだと改めて認識することとなった。

「問題とその本質を認識したときこそ、解決に向けての方法を探し始めるべき」(本書 第7章P142)。
気づきが癒しの始まりであることもこの本で得た学びである。本書ではパート2(第6章)から、性的虐待を受けた女性の声にならない思いに医師や助産師はどのように向き合うことができるのか、立場による捉え方の違いを明示した上で有効な関係を築くためのさまざまなアプローチが紹介されている。中でも第12章の内診などの実施について書かれた施術者(支援者)としての心構えと検査時の注意点では、「体現された同意」という言葉の本質や、コミュニケーションのポイントと実践の内容、内診が癒しの契機になりうるよう、どこまでもクライエントの尊厳が貫かれた的確な内容に深く感銘を受けた。尊厳とはパーツではなく、ひと連なりの皮ふ、身体の隅々にまで行き渡るもの。性的虐待の被害を受けた女性はとりわけ皮ふへの接触や人への警戒心は強い。けれども、ここなら安心して自分を開示できると思える場をお産の現場から広めてほしい。誰かに大切に触れられ、ケアされる体験がこれまでの孤独や傷を癒やし、生きる勇気となることもある。

日本で本書を翻訳された方々の真摯な熱意に心から感謝いたします。本書を読んで私自身が過去を捉え直し、この先をよりよく生きたいと思えたように、本書が誰かの扉を開く一歩に、先を照らす希望になるように願っています。


(A. N.)

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